スワロフスキー銀座

クリスタル製品で誰もが知るスワロフスキーの国内旗艦店である銀座店へ、クリーニング・メンテナンスに行ってきました。

店内のシャンデリアは、もちろんどれもが1点もの。スワロフスキーの世界観を伝えるために趣向を凝らしたデザインは、一切の妥協はありません。早い話が、クリーニング・メンテナンスをする際のマニュアルなどなく、これまでの経験をそのまま当てはめれば良いというものではありません。

俄然やる気が湧いてきます。

そして、今回通常の業務と異なるのが、シャンデリアのクリーニングに加え、スワロフスキーのクリスタルを使用したオブジェや店内装飾のクリーニングです。

通常シャンデリアのクリーニングは、天井、壁についているシャンデリア本体、ビーズ(クリスタルでできているパーツ)の埃を落とし、噴霧器で洗剤をかけて汚れを落とし、水ですすいで乾かすという手順で行います。

つまり、洗浄の対象となるものは天井や壁からぶら下がっていて、その真下は通常床面でありスペースがあるので、使用した洗剤や水は、シャンデリアの下に広げた大きなビニールシートで受けて回収することができます。

しかし、オブジェとなるとそうはいきません。

例えば、このオブジェ。白い玉砂利の上の桜の盆栽です。ややこしい説明となりましたが、要は上から丸洗いができないのです。

この立派なクリスタルの盆栽。レジカウンターの横にあり、開店中は多くのお客さんがここで写真を撮っていくそうで、この大きさと煌びやかさでそれも納得です。では、このクリスタルの桜の盆栽はどのようにして綺麗にすれば良いでしょう。

本物の盆栽のように枝があり、その先端にクリスタルの花びらが5枚ある桜の花がついています。その花の数16,000個以上。パーツが上からぶら下がっている状態ではないので、噴霧器を使うといくら養生をしても枝を伝って洗剤や水が下に垂れてしまいます。

そこで私たちの選択は、「花を一つずつ外して、洗う。」でした。

それにしても、このパーツの数です。洗剤や噴霧器で洗っていたのではいくら時間があっても足りません。そこで秘密兵器の登場です。

手作業で一つ一つの花を外し、超音波洗浄機で洗浄します。よく眼鏡屋さんの店頭に置いてあって、サービスでメガネを洗ってくれる機械、あの原理を使った大型版の機械です。

クリンライフでは、迎賓館朝日の間のシャンデリアの改修の際にこの機械を導入し、クリスタルや金属パーツの洗浄に利用しています。とはいえどんなパーツでも洗えるというものではありません。実際に超音波洗浄機のメーカーの一般的な注意書きには、シャンデリア等のデリケートなものには使用しないでくださいと書いてあるくらいです。その洗浄力は強力で、場合によっては素材を傷めてしまうほど。アルミホイルなどの薄い金属を洗浄機の中に入れると穴が開いてしまいます。そんな機械の特性を理解しているから、事前に入念なテストを行って洗浄に取り掛かります。

洗浄自体はほんの一瞬ですが、せっかく洗っても、ウェス等の布で拭き取ると拭き跡が残って美しくありません。特にこのオブジェは天井に据え付けてあるシャンデリアと異なり見る人との距離が近いのでゴマカシはききません。そこで洗浄の後は、送風機の風を当てて残った水滴を吹き飛ばします。もちろん、パーツが破損しないように丁寧に、丁寧に。

バーテンダーの方がグラスを洗った後、水分を完全に除去するため、専用のクロスで丁寧に拭き上げます。ご家庭でもビールのグラスは洗った後水滴の跡が残らないように乾かし、綺麗な布で拭き取れば泡立ちも綺麗で美味しく飲めますが、拭き残しが跡になっていたりするとその部分にだけ泡がついて見た目が良くないだけでなく、味わいにも雑味が感じられたりするものです。洗った後の仕上げの方に手間がかかるのが、クリスタル製品メンテナンスの「あるある」だったりします。

翌日は、1F壁面に並ぶ「クリスタルバブル」の洗浄です。

スワロフスキー銀座のエントランスから入ってすぐ右。大きなスワロフスキーのロゴを取り囲むように「クリスタルバブル」が壁面いっぱいに並びます。半円のボウルのようなこの装飾も、もちろんスワロフスキーのクリスタル。透過した光の輝きが違います。さらにこのボウル状のクリスタルの内側の面にはビーズが複雑に配置され、その名の通り海の中の泡のよう。

平滑なガラス面でしたら羽箒で埃を落として、洗剤で洗い水ですすぐ一般的な洗浄方法で綺麗になりますが、「クリスタルバブル」はガラスのボウルの内側にガラスがゴツゴツとついているような状態で、通常の洗浄方法では不十分です。この複雑な構造の「クリスタルバブル」の洗浄にも超音波洗浄機が活躍しました。

今回のメンテナンスでは、店内装飾のデザイン、造形、パーツの構造など細部に至るまでの様々な工夫が、これまで見たどれとも異なり、まさにスワロフスキーの技術の粋を集めたものであると感じました。また、高いデザイン性とそれを形にする技術力が製品のクオリティの高さに繋がっているのだと感じました。

事前に洗浄方法の計画を立てる際にも、「一筋縄にはいかないぞ」とスタッフ一同身の引き締まる思いで臨んだわけですが、無事に作業を終了することができ、私たちも勉強になりました。今後のシャンデリアメンテナンスのヒントにもなりそうのことが、たくさん見つかりました。